医者(医師)の離婚について
1.医者の離婚や男女関係の問題については、いくつか特殊な事情が存在します。
以下では、医者特有の問題を見ていきます。
2.医者の財産分与
(1)財産分与の対象となる財産
一般的に、医者(医師)は収入が高く、開業医の方では相当高額な財産を有している場合もあります。原則として、財産分与の対象となる財産は、夫婦が結婚している間(場合によっては、同居している期間)に形成した財産となります。
一般的に財産分与の対象として問題になりやすいのは、預貯金や不動産ですが、医者(医師)の場合には、それ以外にも下記の財産が問題になることがあります。
ア.医療法人の出資持分
婚姻後に、夫婦のいずれか一方(あるいは両者)が出資をして医療法人を設立し、その後、夫婦共同生活が破綻した場合には、原則としてその医療法人にかかる夫婦の出資持分は、財産分与の基礎財産として考慮されることとなります。
このような医療法人の出資持分を財産分与として清算する場合には、その価値をどのように評価するかが問題となります。医療法人が不動産を持っている場合等は、評価方法次第により、その出資持分の評価額は大きく変わります。
そのため、離婚をする際には、安易に評価方法を決めず、弁護士等の専門家に一度ご相談されることをおすすめします。
イ.株式、有価証券等
一般的に医者(医師)は収入が高いため、預貯金の他に、株式や国債といった有価証券を保有していることがあります。
このような株式・国債も、夫婦が婚姻している間に形成されたものであれば、財産分与の対象となりますので、有価証券の所在について調査をすることが必要です。
(2)財産分与の割合について
夫婦共有財産をどのような割合で分割するかについては、家庭裁判所の調停における取扱では、特別の事情がない限り、2分の1とすることが多いです。
これは、夫婦の一方が専業主婦の場合であっても、基本的には同じです。もっとも、特殊な才能・手腕あるいは専門知識などにより多額の資産形成がされた場合には、2分の1の清算割合を採用しないこともあります。
裁判例の中には、医者である夫が、医師の資格を獲得するまでの勉学等について、結婚前から個人的な努力をしてきたこと、結婚後にその医師資格を活用し多くの労力を費やして高額の収入を得ていることを考慮して、夫の寄与割合を6割、妻の寄与割合を4割としたものがございます(大阪高等裁判所平成26年3月13日判決)。
2分の1以外の割合による財産分与を主張する場合には、より具体的で説得的な主張を行う必要がありますので、この場合も弁護士に一度、ご相談された方が適切です。
3.医者の婚姻費用・養育費について
(1)婚姻費用・養育費とは何か
婚姻費用とは、夫婦が結婚生活を送るために必要な生活費です。離婚成立まで、別居中でも請求することが出来ます。
養育費は、未成年の子どもの生活費です。たとえば、医師である夫と専業主婦である妻との間に子どもが1人いて、妻が子どもを連れて出て行ったケースを例にとると、結婚期間中に妻側に払うお金が婚姻費用となります。
離婚をする際に、妻が子どもの親権をとることになった場合、離婚後に妻側に支払う子どもの生活費が、養育費となります。
(2)医者の場合の婚姻費用
婚姻費用や養育費は、子どもの数、年齢の他、夫婦それぞれの収入も考慮して決めます。
医師の年収は高額になることが多いです。それに加えて、勤務医の場合には、勤務地以外に他の医院でアルバイトをしていることがあります。
これは、主たる勤務場所とは異なる収入になりますので、医師でない夫婦の一方がその存在を知らない事もありますが、アルバイト代も、高額になることがありますので、婚姻費用・養育費の算定の上では無視することはできません。
このような主たる勤務場所以外からの収入についても、把握をするためには、確定申告書の写しを入手する等必要があります。
確定申告書を相手が交付してくれない場合には、調停手続において、調査嘱託をかける等の方法をとる必要があります。
(3)養育費・婚姻費用の計算方法と、高額の収入を得ている方のケースについて
婚姻費用や養育費の金額については、東京・大阪の裁判官の共同研究によって作成された、「養育費・婚姻費用算定表」(以下では、「算定表」といいます)が広く使われています。
これは、双方の年収・子どもの数・子どもの年齢等に応じた相応の養育費・婚姻費用を表にしたものです。
この算定表には、養育費や婚姻費用を支払う側の年収が給与所得者の年収が2000万円(自営業者の年収は1409万円)までのケースしか記載されていません。
しかしながら、医師のように年収が高い方の中には、2000万円以上の給与所得を得ている方もいます。そのため、年収2000万円を越える給与所得者や、年収1409万円を越える自営業者の方々の負担する養育費・婚姻費用がいくらなのかが、問題となることがあるのです。
この点に関する最近の裁判例として、福岡高裁平成26年6月30日決定があります。この事案では、養育費の支払をする父親側の年収が6000万円を超えていた事例で、父親側が養育費の減額を求める調停を申し立てたものです。
本事案では、養育費・婚姻費用を算出する過程で必要となる「基礎収入」の割合をどのように計算するのかが争点となりました。
裁判所は、「年収2000万円までの基礎収入割合は概ね34ないし42%(ただし高額所得者の方が割合は小さい…)ところ、年収2000万円を越える高額所得者の場合は、基礎収入割合はさらに低くなると考えられるから、抗告人の職業及び年収額等を考慮して、抗告人の基礎収入割合を27%とするのが相当である」旨判断しました。
この裁判例を前提にするならば、給与所得が年2000万円を超える人や、年収が1409万円を超える自営業者の養育費・婚姻費用は、算定表の数字から機械的に導きだされるものではなく、その者の職業や年収額等といった、個別事情を考慮した上で算出されるものである、ということとなります。
したがって、特に年収の高い方について、適切な養育費の金額を算出するためには、個別具体的かつ説得的な主張をすることが必要となるでしょう。