賃金・残業代

1 残業代とは

「残業」とは、労働契約上の所定労働時間以外に行う労働及び所定労働日以外に行う労働のことを指します。

そして、「残業代」とは、

①法定内残業に対する賃金(つまり、労働契約で定められた所定労働時間をこえているが8時間をこえない部分に対する賃金)

②時間外労働に対する割増賃金(労基法37条1項)

③法定休日労働に対する割増賃金(労基法37条1項)

④深夜労働に対する割増賃金(労基法37条4項)の4つの賃金のことを指します。

2 残業代を請求された場合の会社としての対応

従業員から残業代を請求された場合、どのように対応すべきでしょうか?残業代請求に対する反論方法について解説します。

⑴従業員が主張している労働時間が誤っているとの反論

1つめの考えられる反論としては、従業員が主張する労働時間が誤っているというものです。

そもそも「労働時間」とは、「労働者が使用者の指揮監督の下にある時間」とされています(最高裁判決平成12年3月9日)。

たとえば、会社としては、従業員がタイムカードに基づいて労働時間を計算しているとしても、そのタイムカードに基づいた労働時間の中には休憩時間等の労働者が使用者の指揮監督下にない時間が含まれていると反論し、労働時間の計算から除外するように主張することが考えられます。

使用者には労働時間を適正に把握する義務があります。このことに関して厚生労働省が「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を公表しております(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000149439.pdf)。

本来であれば、残業代請求の裁判においては、原告である労働者が残業時間を主張立証しなければなりませんが、使用者側に労働時間を適正に把握する義務があるので、実際には使用者側に対しても使用者側として把握している労働時間を明らかにしなければならないことが多いです。そして、使用者側が適正に労働時間を把握しておらずこれを明らかにできない場合、本来の必要以上に残業代を支払わなければならない事態となりかねず、事実上不利な立場に立たされることは少なくありません。

残業代請求をされた場合に本来支払われるべきではない残業代を支払わないようにするためには、労働時間を適正に把握することが大切です。厚生労働省が公表しているガイドラインに沿って労働時間を適正に把握する方策をとるべきです。

⑵残業することを禁止していたとの反論

2つめの反論としては、会社が従業員に対して残業を禁止していたとの主張が考えられます。

使用者が労働者に対して時間外労働を禁じ、終業時刻後に残務がある場合は管理職に引き継ぐように命じていたという事案において、残業禁止命令に反してなされた残業については残業代を認めませんでした(東京地裁判決平成15年12月9日)。

このように、使用者が明確に残業禁止命令を出しており、終業時刻後の残務の処理についても指示をしている場合には残業を禁止していたとの反論が認められる可能性があります。もっとも、形式的には残業を禁止していたとしても事実上は残業を黙認している場合には残業代請求が認められるので注意が必要です。同命令を出していたこと自体が争われることもありますので、水掛け論を避けるためにも、メールや書面等、客観的に残るもので同命令を出すようにしましょう。

⑶管理監督者のため残業代が発生しないとの反論

3つめの反論としては、残業代を請求している従業員が管理監督者のため残業代が発生しないとの主張が考えられます。

労働基準法第41条において、「監督若しくは管理の地位にある者」については、割増賃金の対象としないと定められています。

「監督若しくは管理の地位にある者」にあたるか否かについては、「経営者と一体的な地位にある従業員」にあたるか否かにより判断されます。

⑷固定残業手当により残業代は支払い済みであるとの反論

4つめの反論としては、すでに固定残業手当を毎月支払っているため、残業代は支払い済みであるとの主張が考えられます。

毎月の給与において、みなし残業手当等の名称で固定残業手当を支払っている場合は、これらの手当が残業代の支払いとなるため、すでに残業代は支払い済みであるとの反論をすることができます。もっとも、固定残業代手当の支払いに関してはその具体的要件も含め複雑な論点がございますので、制度として導入する際には是非弁護士にご相談ください。

⑸消滅時効が完成しているとの反論

5つめの反論としては、残業代について既に消滅時効が完成しているとの主張が考えられます。

残業代については、給与の支払日の翌日から起算して2年で消滅時効にかかるとされていました(労働基準法第115条)。

もっとも、2020年4月の民法改正で金銭の支払いを請求する権利が原則5年と改められたことに伴い、2020年4月1日以降に支払われる賃金については2年ではなく3年で消滅時効にかかることとなりました。

3 最後に

従業員から残業代を請求された場合に考えられる反論について解説いたしました。従業員から残業代を請求され対応についてお困りの企業様は弊所の弁護士までご相談ください。

 

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