セミナー・公演

平成27年5月29日(金)『傷病休業者と解雇全般の注意点1』セミナー

当日の様子
当日お伝えした内容

平成27年5月29日に、当事務所において、「傷病休業者と解雇全般の注意点1」というテーマで、セミナーを開催しました。

最初に、当事務所弁護士の松﨑広太郎弁護士が、従業員の退職累計を講義形式で解説しました。

その上で、ケース事例をもとに、問題のある社員を退職させるためにどのような方法が適切か、従業員を解雇にするためにはどのようなポイントが重視されるのかを、グループワーキング形式でテーブル毎に検討してもらい、従業員の解雇に関する法的な理解を深めていただきました。

たくさんの皆様にご参加いただき、ありがとうございました。

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今後は、精神疾患を抱えた従業員の対応についても、セミナーを開催していく予定です。
今年の12月からは、ストレスチェックの義務化を定めた改正労働安全衛生法が施行される予定であり、企業の皆様の関心も高い分野です。
今後も、ぜひふるってご参加下さい。

当日お伝えした内容

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第1 事案の設定

今回も、皆様にもイメージして頂きやすいように、以下の設定をご用意致しました。

労働者X:通信機器リースの営業担当(勤続20年ではあるが、他社での実績を踏まえた中途採用)

使用者Y:従業員50名ほどの通信機器リース業者        

1 Xさんの暴挙

Xさんは非常に有能でライバル業者を抑え、久留米で次々と契約をとり、パソコンや電話機をリースした。そして、どんどん出世して統括部長にまでなった。

しかし、それに伴いどんどん増長した。

1 Xさんの暴挙2

社長も2,3度口頭で注意したが、それ以上の対応はしなかった。Xさんは日常的に酒をあびるようになり、出勤時に酔ったまま出社してくることも増え、ついには営業先にも酔ったまま出向き、苦情が入った。

1 Xさんの暴挙3

ある日、Xさんは大口の契約交渉を行うべくA社の重役と打合せの予約を入れていたが、これに寝坊して打合せをすっぽかした。Y社の社長が対応して契約は破談にはならなかったが、社長はついに堪忍袋の緒が切れた。

2 退職類型(正社員)

定年退職

自主退職

合意退職

解雇・懲戒解雇

3 自主退職とは(正社員の場合)

労働者の側からの一方的な退職のこと。期間契約の労働者は別として、正社員からの退職は拒むことができない(2週間以上前に言えば簡単に辞めることができる。そもそも、労働者が途中で辞めても損害賠償などは出来ない)。

4 合意退職

法的には自主退職とさほどの違いはない。労使双方が合意して示談書などを作って労働契約を解消する方法。自主退職と異なり、退職金の上積みなどをすることもある。

5 普通解雇

・使用者から一方的に労働契約を打ち切ること。手続的には30日以上前の予告又は30日分の賃金の支払いが必要になる。

5-2 普通解雇の法規制

解雇は、当該労働者の生活基盤を破壊することから、判例や、法改正により徹底的に使用者の解雇権の行使は制限されてきた。

合理的な理由と、社会通念上の相当性が要求される(労働契約法16条)

6 懲戒解雇

・法規制などは解雇と共通することが多い。ただし懲戒処分の一種であるため、就業規則に懲戒規定を置くことが必要となるし、有効性の判断もより厳格である。

6-2 懲戒解雇法規制

・手続としては即時解雇(解雇予告手当を払わない解雇)を伴うことが多い。しかし、これは事前事後に労基署に許可を取る必要がある。

・退職金を没収・減額をすることがあるがこれは解雇の有効性とは判断は別物。

7 退職類型のまとめ

8 シンキングタイム

以上のような手段がある中で、社長としてはどのような方法を使ってxさんをY社から退職させるのが良いでしょうか。

なお、Xさんの月給は50万円であり、Y社の就業規則上、Xさんの退職金は、自主退職の場合には300万、会社都合退職の場合には500万、懲戒解雇の場合には退職金没収も可能となる。

9 普通解雇のメリット・デメリット

まず普通解雇の場合。

裁判手続などで解雇が違法という判断を受けると、解雇が無効になるので、当該従業員を職場に復帰させなくてはならない→一度解雇した人間を復帰させないといけないので、対応に相当苦慮することになる。

9-2 解雇が違法と判断されたら・・

また、解雇期間中の賃金について、損害賠償しなくてはならない。もし、復職をせずに、労働者が損害賠償を求めるのであれば、解雇の悪質性に応じて賃金の3~6ヶ月分の損害金を支払うことになる。

10 懲戒解雇のメリット・デメリット

解雇と同様、違法と判断されると復職に応じざるをえず、かつ損害賠償金も取られる。労働者への不利益が大きい分、違法になる確率はさらに高い。他方で、退職金も払いたくないような労働者には有用(ただし、退職金の没収自体も無効になることも多い)。

11 自主退職のメリット・デメリット

労働者自ら辞めているのであるから、違法解雇などとは言われないのが原則。他方で、あくまで労働者の自由意思の問題であるから、退職届の提出を断られたらそれまでである。

11-2 自主退職のメリット・デメリット

注意点としては、解雇事由がないにもかかわらず、「自分で辞めないと解雇になるぞ、退職金もなくなるぞ」などと脅すと、脅迫ないし錯誤として退職の意思表示が無効になることがある(ソニー事件:東京地裁平成14年4月9日判決参考)

12 合意退職のメリット・デメリット

基本的には長所短所ともに自主退職の場合と同様であるが、労使話し合いの末に、合意書の形で示談するため、細かな条件の調整ができる。この時、例えば、就業規則所定以上の退職金の積み増しなどをしておくと、脅迫・錯誤の主張は通らなくなる。

13 自主退職・合意退職のススメ

日常的に解雇の事案に携わっている弁護士としては、とにかく適法に解雇をするのは難しい印象。仮に最終的に解雇適法の判決を勝ち取ることが出来たとしても、それまでには担当役員に大きな負担をかけるし、弁護士費用もかかる。

13-2 自主退職・合意解約のススメ

しかし、自主退職、合意退職の場合、その書面を残していれば、これを訴訟で覆すのは著しく困難であるため、労働者側の弁護士も提訴に躊躇する。

14 まとめ

退職金の全額没収をしたいほどの非違行為(横領)を除き、使用者としては、解雇したい労働者がいても無理に解雇せず、最後の最後まで自主退職の届け出あるいは合意書を出させるように努めるべきである。

15 離職票を記載する際の注意

労働者から、失業保険の関係で離職票には会社都合退職にしてほしいと頼まれることがある。これに素直に応じると痛い目に合う。

15-2 離職票を記載する際の注意

当該退職が自主退職なのか、解雇なのか争点になった場合、自主退職であることの立証義務は使用者側にある。つまり、解雇なのか、自主退職なのか不明になった場合には解雇として扱われる。

15-3 離職票を記載する際の注意

よって、自分から辞めると言い出した労働者に善意で会社都合退職にしてあげた結果、解雇だと主張され、解雇に基づく違法損害金を取られる可能性がある。

第2 目指せ適法解雇

既述のように、一義的には使用者は自主退職・合意退職を目指すべきある。しかし、労働者が頑として退職に応じない場合、解雇せざるをえない。そこで、適法に解雇するためにはどのようにしたらよいか検討したい。

1 事案のおさらい

Xは酒にまつわるトラブルを次々と起こし、退職も拒否した。Y社の企業規模からして、事務職への配置転換は一応可能であったが、もともとXの能力をかって営業職として採用している。

2 適法に解雇する要件

まずは、30日前に予告するか、30日分の賃金を払う。その上で

解雇するだけの理由をそろえ、解雇が労働者に与えるダメージに配慮した措置をとる(客観的理由と相当性の議論)

3 具体的事例

トラックの運転手が業務中に物損事故を起こし、その報告を怠った事例→解雇無効

バスの運転手が業務時間外に飲酒運転により、第三者を死亡させた事例→懲戒解雇有効

3-2 具体的事例

朝6時からのニュースラジオ番組のアナウンサーが2週間のうちに2回寝坊し、1回目については10分間の放送の全て、2回目は5分間に渡り放送事故を起こした。→本人が反省していることを踏まえて解雇無効(昭和52年1月31日最高裁判決)

3-3 具体的事例

ソフトウェア開発会社の部長が、会議中に部下に感情的になって怒鳴り散らす、月次報告書をださない、「社長は気が小さい」と部下に発言するなどしたため会社は解雇したが、いまだ解雇するほどの理由にはなっていないとして解雇無効(平成8年1月26日東京地裁)

3-4 具体的事例

英語能力、海外勤務経験をかわれ、管理職待遇で中途採用された労働者が、報告書に英語の誤記が多く、上司に反抗的な態度を取ることが多かったため解雇した。中途・能力採用であることを重視し、解雇有効(平成14年10月22日東京地裁判決)

4 裁判所の考慮要素 (能力不足・勤務態度類型)

①会社規模・種類

②職務内容

③採用の理由(新卒OR中途)

④勤務成績・勤務態度不良の程度

4-2 裁判所の考慮要素 (能力不足・勤務態度類型)

⑤不良行為の回数(継続性はあるか)

⑥改善の余地はあるか

⑦会社の指導があったか

⑧他の労働者との取扱に不均衡はないか

5 シンキングタイム

今回のケースでXさんを普通解雇した場合、適法と言えるだろうか。

現状では違法であるとした場合に、どうすれば適法に解雇できるだろうか。

6 能力不足、態度不良類型   で最も重要な要素

近似の裁判例で最も重要視されているのは⑦の要素。口頭だけでなく書面も含めて、とにかく労働者に指導を与える。時には懲戒処分を行って反省を促す。戒告処分をしたり、始末書の提出を求めることも有効。

7 今回の参考判例

小野リース事件:最高裁平成22年5月25日判決。

8 その他

今回は、最も多いであろう、勤務態度不良、能力不足を中心に論じたが、会社の業績不振による解雇(いわゆる整理解雇)、従業員の私傷病による解雇などはまったく異なる考慮が必要となるので、そのような問題が発生した場合には是非ともかばしま法律事務所にご相談ください。

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