弁護士コラム
労働問題Q&A【1】
みなさんこんにちは。かばしま法律事務所の弁護士、泊祐樹です。
本日は、労働問題Q&Aの第1回について、掲載させていただきます。
第1 労働時間関係(改正危険度:小)
Q1 残業代を払う必要があるのは、労働時間に対してだと思うのですが、何が労働時間にあたるのかよく分かりません。
A1
労働時間とは「労働者が、使用者の指揮命令下に置かれている時間」のことを指さすとされています。簡単に言えば、会社の指示に従って行動している時間ということになるのですが、そう単純な話でもありません。正直この抽象的な定義ではよく分からないので、いくつか具体的な質問を通してお答えできればと思います。
Q2 それでは、具体的に質問します。弊社の事務職の女性たちには制服を支給しているのですが、女性事務員たちは皆さん弊社のロッカーで着替えを行っています。この着替えの時間は労働時間にあたるのですか?もし当たるのであればその分の給与を支給する必要がありますよね?
A2
準備時間の労働時間該当性の論点ですね。これについては、厚労省発表のガイドラインで「使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為・・・を事業場内に行った時間」が労働時間となるとされています。
そのため、御社が、事務員の着替えの場所を事業場内で行うように指示していたのであればこれは労働時間にあたり、賃金が発生します。他方、そのような指示をしておらず、自宅から制服を着てくることを許していた場合にはついては、それは準備時間となり、労働時間にはあたりません。
ただし、注意が必要な業態もあります。例えば、造船業などで、安全靴や専用の作業服を着ないといけないような業種であれば、そのままの格好で帰宅することは事実上難しいような業種です。安全靴を履いて、かつ油などがべっとりついた作業服で電車などに乗れるはずもありませんからそれは事実上事業場での着替えを強制されていることになりますので、そのような準備時間は労働時間にあたります。
Q3 なるほど、準備時間と労働時間の関係は何となく分かりました。弊社では事務職員についてはタイムカードで労働時間の管理をしているのですが、以上の議論を前提に、何か気をつけることはありますか
A3
先ほどお話ししたように、普通の事務職で、かつ事業場での着替えを強制していないのであれば、着替え時間は労働時間にはあたりません。そのため、タイムカードは着替えが終わったのちに打刻してもらう必要があります。逆に帰社の際には、タイムカードを打刻してから着替えに入ってもらう必要があります。
というのも、タイムカードで積算される合計時間については、たとえば残業代訴訟などの裁判手続きにおいてはこれがそのまま労働時間として取り扱われる可能性が極めて高くなります。仮に会社側から「タイムカードの時間内には着替え時間なども入っているので、実際の労働時間はもっと短いはずだ」等と主張しても、その着替え時間を具体的に特定することは困難ですので、このような反論は通らない可能性が高いと思われます。
そのため、タイムカードの打刻時間の内側に来る時間については常に純粋な労働時間になるように常に気を付けて労務管理をする必要があるのです。
Q4 次に休憩時間の考え方についてお聞きしたいです。まず、そもそも休憩時間は1日どれくらい与える必要があるのですか
A4
これは労働基準法第34条が定めています。
・1回の労働時間が6時間を超え、8時間以下の場合は少なくとも45分
・8時間を超える場合は、少なくとも1時間
の休憩を与えなければならない、と定めていますので、ご注意ください。業務が8時間ピタリで終わる場合には休憩時間は45分でよいのですが、実際には数分の残業が発生することは多いと思いますので、できれば1時間を最初から与えた方が無難だということになります。
Q5 そもそも、「休憩時間」とは法律的にはどのように定義されますか
A5
「休憩時間とは単に作業に従事していない手待時間を含まず、労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間」(昭和22年9月13日付行政通達)と定義されています。つまり、実際に作業がなくても、作業をする可能性に備えて、待機させられているような場合には休憩を与えたことにはなりません。原則休憩時間の利用方法は自由でなければならず、休憩終了までに事業場に戻ってくるのであれば何をしても自由となります。もちろん休憩時間中に麻薬の取引をすることなどは許されませんが、それはまた別の話ですね。
Q6 え?そうだとすると弊社の休憩の与え方はまずいのですかね?弊社の事業所では、12時から13時の休憩時間中にも、電話対応や、来客の対応ために、当番を残し、当番の従業員には事務所内で昼食を取るように指示しております。実際にこの時間の来客は少ないので、スマホを見たり、雑誌を広げる等リラックスして昼食を取っていますが、これも労働時間になりますか?
A6
そうですね。実際の接客対応がなくとも、それに備えて待機させていたのであれば、労働から解放されたとは言えませんから、完全に労働時間にあたっています。その分の残業代を払う必要があるばかりか、休憩を一切与えていないということになり、労基法違反が発生することになります。
そのようにお昼の当番を置きたい場合には、きちんと仕事をさせつつ、交代で休憩をとらせるしかないでしょうね。
Q7 当社では、新人に、勤務時間後夜6時開始の業界団体が主催する講習を受けさせるようにしています。これは、本人のスキルアップになるわけですから残業代は払わなくて問題ないすよね?
A7
例え普遍性の高いスキルアップ研修であっても使用者の指示に基づくものであれば、基本的に労働時間にあたります(ガイドライン)。そのため、会社が当該研修を受けるように指示していた場合には労働時間にあたります。
他方、特に義務づけはしておらず、従業員が本当に任意に参加する研修であれば、労働時間からは除外してかまいません。