弁護士コラム

久留米大学の講義をさせていただきました

1 裁判実際学という講義

 

弁護士の寺川忠幸です。

久留米大学では、裁判実際学という筑後地区の弁護士が各回交代で担当する講義があります。

この講義は、一般の聴講も受け入れており、多数の市民の方も受講されているようです。

 

2 私の担当した講義内容について

テーマは講義を担当する弁護士が設定し、講義の準備も行います。

私が担当した回は「婚姻外における男女の関係」をテーマにしました。講義では、主に不貞についての裁判例を取り上げたので、その中からいくつか紹介しながら、講義の内容の概要をお伝えしたいと思います。

⑴法は恋愛関係をどう考えているのか

なるべく干渉せずに「当事者の自由にゆだねている」というのが原則です。

以前は姦通罪(夫のある女性が不貞をした場合、およびその相手の男性に成立する罪)がありましたが、男女平等に反することから廃止されました。また、姦通罪で刑が科された者は、その相手方と婚姻できないことになっていました(旧民法768条)。

恋愛関係に干渉する法律には「ストーカー規制法」がありますが、これは、最近(20年前)制定されたものです。

その他、重婚罪(刑法184条)がありますが、年間1件か2件発生するかしないかのようです。

⑵不貞相手に対する慰謝料請求について

最高裁判例によると、不貞行為とは、配偶者の有る者が、自由な意思に基づいて、配偶者以外と性的関係を結ぶことをいいます。

精神的繋がり、メールやLINE等メッセージのやり取りや食事を共にするといったケースでは、不貞行為ではないことになります。また、一般的には慰謝料請求はされません。ただし、不貞が認められなかったにもかかわらず、慰謝料請求を認めた裁判例もあります(ここでは、広く配偶者が有る者が配偶者以外の者と交際することを「不倫」とします)。

 

ア 不貞を疑わせる事実があったのに加え、不倫相手が不倫をした者と結婚を約束して交際し、さらには配偶者との別居、離婚などを要求して離婚をすることに加担したことで、不倫相手に250万円の慰謝料の支払いを命じたケース(東京地裁平成20年12月5日)。

 

イ 不倫をしたが、メールからは不貞関係を疑ったことは無理からぬものの、不貞関係の存在を認めることはできない、としながら、宿泊をしたかのような表現と不貞を暗示する表現が使われていたとして、不倫相手に30万円の支払いを命じたケース(東京地裁平成24年11月28日判決)。

 

ア・イの判決ともに、不貞を疑わせる事実が複数あり、不貞があった可能性はあるが、証拠不十分で認められなかったように読み取れます。そのうえで、アのケースは、不倫相手が離婚に積極的に加担して離婚に至ったことを重視したので、比較的高額な慰謝料を認めたのに対して、イのケースではメールのやり取りを行ったことが認められたにとどまったので、比較的低額となったと考えられます。

裁判所は、不貞行為ことが発覚して精神的に打撃を受けたことよりも、不貞行為を行ったことにより婚姻関係を破壊したことを重視していると考えられます。

 

ウ いわゆる「枕営業」判決(東京地裁平成26年4月14日)について
配偶者が、クラブのママと長年(7年間)に渡り、不貞行為を行った事案で、いわゆる枕営業は、顧客と商売として関係を持ったものに過ぎず、何ら婚姻共同生活の平和を害するものではない、として不貞された配偶者からママに対する慰謝料請求を認めなかったケース。

 

この判決は、話題になりましたが、判断のポイントは、枕営業はその名の通り営業的、職業的になされるものなので売春等と同様とみて、婚姻共同生活の平和を害しないとしたことにあります。

ただし、多くの不貞行為は婚姻共同生活の平和を害する意図はなく密かに行われており、違いは「恋愛関係にあるのか」という点しかありません。さらに、愛情も対価のやり取りもない不貞関係も全くないとは言えず、これらのケースを不貞行為として慰謝料請求を認めてきた裁判実務との関係が不明です。また、この判決は控訴されず確定したので、地裁の判決の一つであり、判例としての先例としての価値は高いとまでは言えないことに注意が必要です。

そして、このケースでは不貞された配偶者(妻)と不貞した配偶者(夫)は離婚していなかったようで、むしろ夫は配偶者に協力的だった(証拠となる陳述書を原告である妻に提供している)ことがうかがわれます。この判決は、営業的に行っている相手と不貞行為をした場合において、夫婦間での離婚原因になるか、慰謝料請求を認めているのか、という点には何ら判断はしていません。むしろ営業的な相手と不貞行為をした場合にも離婚原因、慰謝料請求となるのが一般的であることに注意が必要です。

 

エ 離婚慰謝料請求事件(最高裁平成31年2月19日判決)について
不貞を原因として離婚に至った不貞をされた元配偶者が、不貞相手に対して、離婚に至ったこと自体とその原因となる行為に対する慰謝料(離婚慰謝料)を請求したが、不貞された元配偶者の請求を認めなかったケース。

 

この判決も話題になりましたが、ポイントは、不貞相手に対する離婚慰謝料の請求は、単に夫婦の一方との間で不貞行為をしただけではなく、離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして、離婚を余儀なくさせた等の「特段の事情」がない限り、不貞相手に対し離婚慰謝料を請求することはできないとしたことです。つまりは、不貞をしただけではなく、さらに「離婚させるような行為をすることを要する」とした、ということになります。

通常、不貞相手には、不貞行為をしたことによる慰謝料(不貞慰謝料)を請求します。このケースでは,不貞が発覚して不貞相手も判明してから3年以上経過しており、不貞慰謝料を請求しても、消滅時効が完成しているとされるものでした。そこで、離婚成立から3年間は消滅時効が完成しない、離婚慰謝料を請求しようとしたわけです。その結果「特段の事情がない」として、離婚慰謝料を認めなかったということになります。

どのような場合が「特段の事情」に該当するかは、裁判例が蓄積されるのを待つことになりますが、離婚するしないを決断するのは原則として夫婦間の問題であり、第三者の行為は婚姻を破綻させることを意図し、かつ社会観念上不当と思われる程度の干渉行為を行った程であることが必要であり、ハードルは高いと思われます。具体的な例としては、不貞関係をもった配偶者を騙し、脅迫するなどして離婚に追い込んだ、というもの挙げられます。

 

3 おわりに

本講義で学生の感想は、「不貞とは無縁でいたい、しかし、もしパートナーに不貞の疑いがある場合に役に立った」というものが多く見られました。

不貞とは無縁でありたいですね。

 

ただし、万が一不貞の疑いがある、不貞の疑いをかけられてしまった場合は、様々な問題点がありますので、ご心配な方がいらっしゃれば当事務所へご相談ください。

 

 

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