弁護士コラム
新型コロナウイルスに関するQ&A第2弾(労務問題について)
前回、新型コロナウイルスに関するQ&A第1弾を掲載しましたが、今回はその第2弾です。
おそらくは全ての業種の方々が、今般の新型コロナウイルスによる直接・間接の影響を受けているのではないかと思います。
少しでもお役に立てる情報を提供して参りたいと思いますので、ご覧ください。
Q 新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が出され、私が経営している会社の業種を対象とした休業要請がありました。これに従って、休業をしようと思うのですが、休業手当は支払う必要があるのでしょうか?
A 自宅勤務などの方法で休業を回避することができる場合には、休業手当の支払義務が生じる可能性があります。
(解説)
休業する場合、それが使用者の責めに帰すべき事由によるのであれば、使用者は、休業期間中に、平均賃金の60%以上の休業手当を支払う義務があります(労働基準法第26条)。
他方で、休業が不可抗力による場合には、使用者に休業手当の支払義務はありません。
問題は、今回の新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や休業要請に基づく休業が、不可抗力によるものといえるかどうかです。
厚生労働省が発表している、「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」で示された考え方によると、不可抗力による休業といえるためには、
➀その原因が事業の外部より発生した事故であることに加えて、②事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること、の2つの要素をいずれも満たす必要があります。
このうち、➀には、今回の新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請等は、該当するものといえます。
次に、②について、経営者として最大の注意を尽くしたといえるためには、休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしたといえる必要があります。
たとえば、自宅勤務といった方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分に検討したといえるかという事情や、労働者に他に就かせることのできる業務があるにもかかわらず休業をさせていないかという事情から、判断されることになります。
このように、新型インフルエンザ等対策特別措置法の緊急事態宣言に伴う休業要請を受けて労働者を休業させた場合は、➀には該当するものの、②にも該当しなければ不可抗力による休業とはいえないので、一律に労働基準法に基づく休業手当の支払義務がなくなるものではありません。
Q ホテル業を営んでいる者ですが、顧客が減少して経営が苦しくなっています。そこで、いったん従業員に対して、需要回復後に再雇用することを約束した上で、解雇し、失業手当を受給してもらおうと考えています。報道でも似たような企業を見かけましたので、このやり方に問題はないですよね?
A 客観的に合理的な理由に基づき、社会通念上相当であると認められる場合でなければ、解雇は無効になります。
また、再雇用を前提としており、従業員に再就職活動の意思があると認められない場合には、失業手当は支給されません。
(解説)
1.労働契約法第16条により、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、無効とすることとされています。
業績が悪化したことを理由として解雇をする場合にも、配転や一時的に労働者を休業させる等、他の手段により解雇を回避する努力をしないままで解雇に踏み切った場合には、解雇権の濫用として無効になる可能性があります。
2.また、労働契約法第16条に従って解雇をする場合であっても、原則として、少なくとも30日前に解雇の予告をするか、解雇予告手当(30日以上の平均賃金)を支払うことが必要です。
3.次に、雇用保険の基本手当(一般的に「失業手当」と呼ばれているもの)の支給を受けるためには、誠実かつ熱心に求職活動を行うことにより、職業に就くように努めなければなりません(雇用保険法第10条の2)。
そのため、再雇用を前提としており従業員に再就職活動の意思がない場合には、支給されないことになります。
基本手当の支給を受けてもらうことを目的に、再雇用を約束した上で解雇をするという方法をとった場合、当該解雇された者に再就職活動の意思がないとみられてしまう可能性があり、基本手当が支給されない可能性が出てきてしまう以上、避けた方が良いといえます。
解雇を回避する努力を尽くしてもやむを得ず解雇という選択をとらざるを得ないという場合には、安易に再雇用を約束することは避けるべきです。
Q (小学校等の休業に伴う保護者の休暇取得について) 私が経営している会社に勤務している者の中には、小学生の子供がいる者がいます。今般の新型コロナウイルス感染症の影響で、小学校が臨時休業となり、子供がいる従業員が子供の世話をしなければならなくなったので休暇を取得しました。この場合、何らかの国の支援があるのでしょうか?
A 会社が休暇中に支払った賃金を助成する制度があります。
(解説)
臨時休業した小学校や特別支援学校、幼稚園、保育所、認定こども園などに通う子供を世話するために、2月27日から6月30日までの間に従業員(非正規労働者も含みます)に、年次有給休暇を除く有給の休暇を取得させた会社に対しては、上限1日8330円として、休暇中に支払った賃金全額を助成する制度があります。
詳しくは、厚生労働省の下記ホームページをご確認ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07_00002.html
Q (外国人技能実習生に対する失業手当、有給休暇等 当社では、外国人技能実習生を雇用しております。今般の新型コロナウイルスの影響により、技能実習生も休業をしてもらっていますが、この場合に、当該技能実習生に対しても、休業手当を支払う義務があるのでしょうか? また、技能実習生が年次有給休暇を取得したいと希望してきましたが、これにも応じないといけないでしょうか?
A 日本人と同様、要件を満たす限りは休業手当の支払も、年次有給休暇を取得させることも必要です。
(解説)
労働基準法の適用があるか否かについて、外国人であるかどうかは無関係です。
外国人技能実習生に対しても、使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合には(Q1を参照)、休業手当の支払が必要になります。
また、同様に、年次有給休暇についても、日本人労働者の場合と異なるところはなく、原則として、技能実習生が請求した時季に与えなければならないです。
この点について、日本人と外国人技能実習生とで異なる取り扱いをすることは、トラブルの原因になりかねないので、ご注意ください。
Q (新型コロナウイルスの感染による労災補償) 労働者が新型コロナウイルス感染症にかかった場合、労災保険給付の対象となるでしょうか?
A 業務又は通勤に起因して発症したと認められる場合には、労災保険給付の対象となります。
(解説)
労働者が業務に従事している際に、感染した場合(たとえば、医療従事者が、新型コロナウイルス感染症を発症した患者の診療・看護に当たることにより感染した場合)には、労働者の業務と疾病との結果の間に相当因果関係が肯定されるので、業務災害として労災保険給付の対象となります。
また、通勤途中で感染した場合(たとえば、満員電車で通勤中、同乗していた者から感染をした場合)にも、通勤と疾病との間に相当因果関係があるとして、通勤災害として労災保険給付の対象となり得るでしょう。
ただし、これらが原因となって感染したということをいかに立証するかという問題は残ります。
自身のこれまでの行動経路を示し、業務中あるいは通勤中以外に感染に至る接触がなかったこと等を説明すること等が、一つの方法として考えられるのではないかと思います。