弁護士コラム
遺言執行者の権利義務
1遺言執行者の立場
遺言執行者は、遺言者に代わって、遺言の内容を実現するために必要な事務処理を執り行います。
遺言執行者は、必ずしも相続人の利益のために職務を行うものではありません。
例えば、事実婚の場合の妻は相続人ではありませんが、遺産の一部または全部を事実婚の妻に遺贈(遺言により財産の一部または全部を与えること)をした場合は、その結果相続人が相続する遺産が減少することになります。遺言執行者は遺言を実現するために事実婚の妻に遺贈による財産の引き渡し、名義変更(不動産の登記)等を行わなうことになります。
また、遺留分侵害請求(減殺請求)権が行使された場合は、遺言の内容と異なる遺産の配分を求めることになるので、遺言をした者の意思と相続人の利益が対立します。この場合も、遺言執行者は遺言者の意思に従い、遺言に従って財産の配分を行うことになります。
2遺言執行者の職務
相続人の調査、遺言書の検認の申し立て、相続財産の調査・管理、相続財産の目録の作成、財産の移転、認知、相続人の廃除(取消)、訴訟追行などを行います。また、遺言執行者は相続人へ遺言の内容を通知しなければなりません。
①相続人の調査
遺言の執行の前提として、相続人を確定する必要がある場合があります。
遺言執行者は必要がある場合は、戸籍の入手等により、相続人の調査を行います。
②遺言書の検認の申し立て
・遺言の検認とは
遺言の検認とは、家庭裁判所で、遺言書の現状を確保・保全する手続きのことです。
検認はあくまで、遺言が変造(不法に内容を書き換えられる)、不法に破棄されることを防ぐための手続きで、遺言が有効であることを確定するものではありません。
そのため、検認を受けていない遺言が無効になるものではありません。また、検認を受けた遺言が有効であることが確認されるものではありません。
・遺言の検認の義務
公正証書遺言以外の遺言書が発見された場合は、家庭裁判所に遺言書を提出して、検認手続を申し立てなければなりません。遺言執行者が遺言書を保管していた場合、または遺言を発見した場合は、遺言執行者が検認を申し立てることになります。
③相続財産の調査・管理、相続財産の目録の作成
遺言は相続財産(遺産)を配分することが主な目的となります。
遺言執行者は、遺産を配分するために、遺産を調査し、目録を作成して、遺言の執行が完了するまで、遺産を適正に管理しなければなりません。
④財産の移転
遺言執行者は、遺言に従って財産の移転、引き渡し、遺産が不動産(土地・建物)の場合など名義変更が必要なものの場合は登記などの名義変更手続きを行います。
⑤認知、相続人の廃除・排除の取消
遺言により、認知を行うことができます。
遺言で認知がされていた場合は、遺言執行者は認知の届出を行わなければなりません。
また、遺言により、相続人の廃除の意思を表示することができます。
相続人の廃除とは、被相続人に対して、虐待、重大な侮辱、その他著しい非行があった場合、被相続人の意思により、相続人としての資格を失わせるものをいいます。相続人の廃除は、家庭裁判所に申し立てることによりされます。また、相続人の廃除は家庭裁判所に申し立てることにより、取り消すことができます。
遺言で、相続人の廃除の意思表示があった場合は、遺言執行者が家庭裁判所に廃除の申し立てを行うことになります。
認知、相続人の廃除・取消については、必ず遺言執行者が行わなければなりません。遺言で遺言執行者が指定されていない場合は、家庭裁判所が遺言執行者を選任することになります。
⑥訴訟追行
遺産に関する訴訟が提起された場合などに、遺言執行者が当事者になることがあります。
⑦遺言執行者の通知義務
遺言執行者は、遺言執行者に就任したこと、遺言の内容を相続人に通知しなければなりません。
これは、遺言執行者がいない場合、相続人は遺贈などを実現しなければならない義務を負います。これに対して、遺言執行者がいる場合は、相続人はこのような義務を負うことはありません。
例えば、自宅土地建物を事実婚の妻に遺贈した場合、遺言執行者は単独で事実婚の妻に遺贈を登記の原因とした所有権の名義変更の登記をすることができます。この場合、相続人は名義変更の登記をすることはできません。そうすると、相続人は遺言執行者がいるかいないかによって、大きな影響があることになります。そこで、遺言執行者に相続人に遺言執行者が就いたことを知らせることにしました。
3 遺言執行者を弁護士にすべき場合
法律上、遺言執行者が行わなければならない、認知、相続人の廃除・排除の取消を記載する場合。この場合は、裁判所に手続きを取らなければなりません。そして、利害関係を有する相続人から訴訟を提起される恐れがあります。
財産が多数ある場合、相続人が多数いる場合には、調査が複雑で、取り寄せる戸籍、資料が膨大になる場合があります。また、多数のところに手続きを取らなければならず、手間がかかります。これらは想像以上のストレスとなります。
相続人ではない者に遺贈を行う場合、遺言執行者が就いていない場合は、相続人全員が名義変更の登記手続きを行わなければなりません。相続人の一人が協力しない場合は、その者に対して裁判をするしかない場合も生じます。第三者である弁護士が遺言執行者に就任した場合は、遺言執行者が単独で、かつ利害関係がないので、速やかに名義変更が行われます。
以上のものは、弁護士が遺言執行者となることによって、遺言執行の事務としてスムーズに進めることが可能となります。